【かくたの視点】介護におけるAI・ICT活用の流れについて

コラム

本コラムをはじめ、いろいろな場で私は「介護現場の生産性向上」の重要性について訴えてきました。生産性の向上、とひとくちに申し上げても、そこには多様な側面があります。まずは介護報酬の改善による介護事業経営の安定化、介護職の処遇改善。そして組織づくり、働きやすい環境づくり。そういった環境づくりのひとつに、AIやICTの活用が挙げられると思います。

 

AI、ICTという言葉と「介護」を結び付けようとすると、どうしても「介護ロボット」、さらには「ロボットが介護をする」といったイメージが先行してしまいます。これは「介護ロボット」という言葉のキャッチーさによるものだと思います。ただそういったイメージのせいか、人と人とのコミュニケーションを大切にする介護の現場からはAIやICTを取り入れることに懐疑的な声が出ることもあります。

 

ですが実際のところ、現在ではAIやICTを活用したさまざまな商品やシステムが生まれており、日進月歩の勢いで進化し続けています。そして既に、見守りセンサー、記録のペーパーレス化、天井走行リフト、インカム、シフト自動作成システム等の導入によって、業務フローの改善に向けた取り組みを行っている施設もあります。

こういった商品やシステムを上手に活用していくことによって、職員の負担を軽減し、「人がやるべきサービス」に集中していく。それが2040年に向けた介護の進化なのではないかと考えます。

 

シフトの自動作成システムは、これからどんどん広まっていくのではないかと言われています。あらかじめ決まったルールや個別の職員の資格、事情などのデータを読み込ませておけば、自動作成してくれるというシステムです。シフト希望、法令基準の遵守、職員配置のバランスなどを考慮しながら最適なシフトを作成してくれるので、単なる作成の手間の軽減というだけでなく、業務の効率化に役立ちます。

シルエット画像を用いた見守りセンサーも優れものです。ベッドでの状態を見守るセンサーカメラなのですが、プライバシーを考慮して、画像をシルエット化して状況を確認。異常を検知した場合には通知してくれます。居室に入室することなく、徘徊やベッドからの落下を防ぐことができます。

そのほか、iPadなどのタブレット端末を用いた帳票入力や、職員間でのインカムを使用したコミュニケーション活用も進んできています。現在は音声入力の性能が高くなってきています。難しい言葉を羅列しても、ちゃんと聞き取ることができるので驚きです。こういった、「書く」「見る」「聞く」などの部分でAIの力を借りることができれば、介護職のポテンシャルはもっともっと高い水準にまで向上するのではないかと期待しています。

 

現在、老施協をはじめ日本医師会や全老健、GH協、日慢協といった各団体と厚労省とが、「介護現場革新会議」としてこのようなICT活用についても議論を行っており、現場レベルへの展開として、全国数ヶ所でパイロット事業を展開しています。今年度中には、この成果を取りまとめて公表される予定です。一部で実施されてきたAI・ICT活用のノウハウが共有されることで、これから爆発的に普及していくのではないでしょうか。

 

今後は、各種端末のAPI連携やデータ基盤のあり方など、データの適切な利用についても調査研究が進められていく予定です。こうした新しい介護の取り組みを提案し、発信していくことで、「安心・安全で質の高い介護の実現」を少しでも早く形にしていく。それも私のなすべき使命だと考えています。